Cyclo-Cross World Championship 2006
Elite

オランダ・ゼッダム
1月29日 60分
小坂正則(スワコレーシング)

朝、気温を確認するため外に出てみる。
−5度位か。
こちらに来て一
番と言える快晴だ。

昨日より少し冷え込んではいるが、コースコンディションは
昨日
の午後の試走時と大きく変わらないだろう。

いつものとおり8時から朝食を摂るが、
今朝はチーズとハムは一切れに押さえて、
パンにジャムを塗って食べる。
食欲は普段と変わらず体調も良い。

部屋に戻り、いつも
より入念にストレッチをする。
その後は部屋で藤沢周平の時代小説を読み休養する。

自分でも不思議なくらいドキドキする緊張感がない。
シクロクロスで世界選手権と名
の付くレースはこれで11回目となるが、
こんなにリラックスしているのは初めて
だ。
1週間前の不安がウソのように・・・


悪夢のワールドカップ

先週のワールドカップは惨憺たるものだった。
金曜日に現地入りしたばかり
だったとはいえ、
50分でラップアウトとなってしまった。
身体も重く、こちらのコー
スコンディションに戸惑い、
タイヤの空気圧を低くし過ぎたままスタートして、序盤か
ら最後尾だった。

渡航前にこのレースについては「調整と割り切って無理をしない」
つもりでいたが、
これほど走れないとは思わなかったし、トップの早さも予想以上
だった。

また、辻浦君との差もショックだった。
ジュニア・アンダー・女子選手が完
走を果たす中、
ただ一人惨めな結果で世界選など到底走れない気がした。
でも、「こ
こで下向きになったらいけない。あと1週間もあり、充分調整は出来る」
という自信
も湧いてきたし、
また、その気持ちを強く持ち続けなければ、今ここにいる資格はない
と自分自身を鼓舞した。

週明けの月曜は軽めのロード練習で身体の様子を見るが、
気分的にも、身体的にも、すぐれず、
特に脚の疲れがひどく少しの向かい風でもつらい。

火曜の午後はオランダナ
ショナルチームの、
ジュニア担当コーチの主催する練習会が行われると聞き、
辻浦君、
竹之内君と参加した。

インターバル、コーナーワークを中心に2時間、郊外の林の中
を集団で走る。
オランダ選手権で3位になったエリートなども参加しているので全体
のレベルも高い。

自然と競争心が高まり辻浦君、竹之内君をはじめオランダ選手とも、
コーナーの突っ込みやダッシュの際にバトルを仕掛け、
仕掛けられたりしているうちに気分
がハイになってきた。

ひたすら前の奴のケツを追っかけ回し、
隙あれば突っかけると
いう競争の原点を楽しむことで疲れも忘れる。

先週のレースで失いかけていたコー
ナーワークのリズムも戻ってきた。
この練習会に参加したことでワールドカップ後に引
きずっていた
イヤな雰囲気を吹き飛ばすことが出来た。

水曜からはコースの試走を重
点に調整した。
水曜にコース入りし7〜8周回した後、
ホテルの部屋で各コーナー等
の攻略をイメージしたコース図を描き
イメージトレーニングをした。

このコースは
コーナーが多くしかも滑りやすい路面なので、
いかに早く安全にコーナーを抜けるか
が攻略のポイントと見た。
もちろん直線区間、階段区間も重要ではあるが。

走りの心
と体の準備は一応整った。




レースへ

11時から昼食を摂る。
メニューはミートソースのパスタ。
テーブルに出された量
では物足りずお代わりを注文した。

食後、部屋に戻るとテレビで女子のレースを中継
している。
次第にこちらも緊張感が高まってきた。

今回、代表に選考された時、出場することに対して不安があった。
他の選手より人一
倍経験は積んでいるつもりだが、
全盛期に比べ明らかに力は落ちている。
当時でさえ
完走が目一杯の状況だったのに、今の自分がどれだけ走れるのか。
果たして成績を残
すことが出来るのか。

反面、「やるだけやって、完走を目指してみよう」という気持
ちもあった。
エースは辻浦君、気張らずに楽な気持ちで走れば結構いけるはず。
この
歳で完走できたとなれば大きな自信にもなる。
それにこの大舞台の雰囲気を楽しんで
くるチャンスは滅多にない、と。


12時から、着替えなどの支度をして、バイク部屋に行く。
メカニックから「今日は
コースが凍って、やや堅い」との情報を得て、
昨日の試走時より若干空気圧を高くし1
時頃コースに向かう。
コースを2周回するが、今までで一番走りやすい路面状況だ。

 
空気圧もベスト、体調もかなりいい。
観客の多さに気持ちも高ぶる。



2時30分レーススタート。
いきなり、すぐ左隣の2人が絡み合ってこちら側に迫っ
てくる。
右に避けるほか無いが、自分の後ろに誰かいれば突っ込まれることは必至
だ。
減速しながら運を天に任せ右に回避。
安堵する暇もなく前を追う。

またしても最
後尾のグループに入ってしまった。
下りのセクションでは渋滞と強引な割り込みで、つい
に最後尾になるが、前を追っていく。
ダートのコーナーで転倒している奴等を尻目に行
く。

辻浦君はすぐ前の集団に入っている。

2周回を終えホームストレートに入った所
で、前の集団から辻浦君が遅れている。
スピードも落ちて苦しそうだ。
ここは何とか彼
を回復させ、ひとつでも順位を上げるべく二人で行こうと思い、先頭に出て引く。

ダートに入ったところで、彼も一呼吸つけたのか、元気な様子だ。
自分も辻浦君と同じ集団になったことで、少し落ち着いてきたのか、
周りの状況が見えるようになってきた。



コーナーでの失敗もなく安定した走りが出来ていると思う。
ドイツ・アメリカ・オー
ストリア・イギリスとのパックで走る。
舗装の長いホームストレートで奴等は引かな
い。
後ろを振り返り「誰か引いてくれ」といわんばかりの様子。

こちらも何とか完走
だけはしたい。
こいつらのペースでは前との差が開き埒があかない、と判断し
ホーム
ストレートは全力で先頭を引く。

周回を重ねつつ先頭との差も気になる。
1周約7分
として、監督の矢野さんから伝えられる差は
次第に大きくなっているようだが、何と
か安全圏内か。

但し、このままトラブル無く走ることが絶対条件だ。
火曜日の練習会
で感じた競争の楽しさで頭の中が一杯になっているが、
ここは、今まで以上に路面状
況、コーナーワークに注意を払い、
パンク等のつまらないミスを犯さないよう集中力
を高めて走る。

もちろんひとつでも順位を上げるべく、前から落ちてくる選手を追
う。




「とにかく完走」と言い聞かせながら最終周回に入る。

辻浦君には少し遅れを
取ってしまったが、彼の後ろを追う。

ホームストレートに入り完走を確信する。
前の二
人を追ってスプリントするが届く距離ではなかった。

後ろも開いているので今のポジ
ションは変わらない。


そして、ゴール。
目標を達成できたこと、楽しんでレースでき
たことの充実感で満たされる。

チームカーに戻り、サポートしてくれたスタッフにお
礼を言う。
今までは、「走ったのは自分の力だ」という気持ちが強かったが、
この歳
で完走できたのは、ここにいるスタッフだけでなく、
お世話になったすべての方々のお
陰だと感謝の念で一杯になる。

余韻に浸りながらコース脇をホテルに戻る。
改めて目
標を達成できた喜びがこみ上げてくると同時に、
「スタート時のペースダウンが無
く、もう一つ前のパックにはいることが出来ていれば
もっと行けたかも」と欲張りな
気持ちになる。
どんなレースでも後になれば反省点、改善点が見えてくる。



またひとつシーズンが終った。
今シーズンは全日本のタイトルこそ逃したが、
8回
目となるシリーズ戦の総合優勝、世界選手権出場というチャンスを与えられ、
そこで
は自分でも満足できる成果を収めることができた。

いいシーズンだったと思う反面、
世界のトップとの差は
自分が世界選に参戦し始めた頃とあまり変わっていないように
感じた。
我々も進化してはいるのだろうが、彼らもさらに進化している。

今シーズン
の問題点を改善し、また次のシーズンにレースが出来るように準備していきたい。
あの大舞台で再びゴールを迎える日を目指しながら。