Cyclo-Cross World Championship 2006
Elite men

オランダ・ゼッダム
1月29日14:30スタート/60分間 
レポート
レポート

男子エリートは、ベルギー勢が1−2フィニッシュを決め、
日本選手2名は、近年手が届かなかった「完走」を果たした。

レース
出走1時間前、選手、スタッフが会場にやってきた。

他のどのカテゴリーよりも、2人の選手には
どっしりとした集中がみなぎっている。

その邪魔をしないよう、スタッフは気を遣いながら、
スタートバイクとスペアバイクのチェックに余念がない。

コースは既に何重にも観衆で埋め尽くされていた。
スタートラインには、各国のメディアが
「優勝者」の出走前の画を撮ろうと
必死になってひしめき合っている。

有力選手

ワールドカップ全10戦中、8戦を征した
スフェン・ネイス(ベルギー)
誰もが認める大本命のデフェンディングチャンピオンだ。

だが、クロス王国ベルギーには、誰が勝ってもおかしくない
有力選手が顔を並べている。

この1週間前にオランダで開かれた
ワールドカップの最終戦を制した
フェルフェッケン・エルウィン(ベルギー)も
第6戦で勝ったウェレン・バルト(ベルギー)
調子を上げて来ており、
この世界選手権を獲ろうという野心に燃えている。

ちなみに、ネイスは最終周回にパンクにあったとはいえ、
8位でこの最終戦を終えており、
調子が気になるところでもあった。

他に、オランダ、フランス、チェコ、イタリアに
何名かの有力選手がいるが、
金メダルはベルギー勢の誰かの手に渡ることが予想された。


さぁ、レースが始まる。

20名あまりの選手が一斉に先頭を走る。
ベルギー、オランダ、フランス、チェコ、
イタリア、ポーランド。

男子のレースは60分。
どこでふるい落とされて行くのだろうか。


他のカテゴリーの選手が苦戦した下りも、
男子エリートの集団は、雪崩のようなスピードで駆け下りて行く。

まず、
辻浦圭一が下って来た

今年も、4回目の全日本タイトルを取ると、
すぐにオランダに渡った。

オランダのヒューブ氏のもとにホームステイしながら、
ナショナルレースや、ワールドカップを転戦し、
世界選手権に備えるのだ。

クロスで強くなるためには、欧州で走るしかない。
この冬の欧州の路面で、この本場のコースレイアウトで、
この強豪たちのスピードとパワーとテクニックの中で、
もまれていなければ、
世界の本舞台で太刀打ちできないということを、
辻浦は、身体をもって悟っていた。

5シーズン目。
今シーズンは、確実に世界との差を縮めていた。
所属チームとの契約種目であるMTBでも、
結果を出し始め、世界選手権にも参戦した。
ハードな年ではあったが、
いろいろな意味で自信をつけてきているだろう。

だが、この日本の期待を集める辻浦が、クロスの世界選手権の
エリートカテゴリーでは、完走を果たしていない。

このオランダで、今年こそは「結果」を、と、
背負うものは誰よりも重かった。

少しおいて、小坂正則が降りて来た
42歳、世界選手権には、92年から99年まで連続出場。
日本に「クロスの選手」がいるとしたら、この人である。

久しぶりの挑戦。
ワールドカップ最終戦の前々日にオランダ入りし、
ワールドカップに臨み、「全く走れなかった」

だが、その後オランダナショナルチームの練習等に参加し、
めきめきと調子を取り戻して来ているという。

今回のコースでは、ベテラン小坂が、
底力を見せるかもしれない。


迫力

トップ集団が階段に差し掛かると、
幾重にもコースを取り囲む大観衆が沸き上がる。

バイクを担ぎ、32段の階段を一斉に駆け上がって来る姿は、
研ぎすまされた目をした猟犬の群れのようだった。

速い...
瞬きが出来ないほどの迫力に、鳥肌が立った。

選手たちは、まっすぐ前を目指し、バイクにまたがると、
先を争って、坂道を上って行く


直線部分の少ない今回のコースでは、
先行する選手を追い抜ける箇所は、限られており、
難所を越えた後に控えるこの坂道は、
実力差が最も顕著に出る、レースの鍵を握るポイントだった。


レースは進む

スタートから43分、6周目を終える頃には、
先頭集団は9名に絞り込まれていた。

先頭4名はベルギー勢。
ウェレンがトップを守り
バノーペン、フェルフェッケン、ネイス、(ベルギー)
オウバッハー(チェコ)、モウレイ(フランス)
フランゾーイ(イタリア)
ゲルベン(オランダ)、シャイネル(フランス)が続く。

あと3周。
圧倒的な強さを誇るベルギーが、表彰台を独占するのだろうか。

トップから3分ほど遅れて、
小阪-辻浦がほぼ差を開けずにやって来た。
完走は堅いだろう。


優勝候補の脱落

もうすぐ、8周目が終わる。
先頭は相変わらずベルギー勢が占めていた。
ゲルベンが脱落し、8名の集団だ。
次第に、集団は殺気立って来る。


ところが、ネイスが落車した。
最終周回、あの下りで、ハンドルを木にぶつけ、
地面に叩き付けられ、立ち上がれなかったと言う。

ネイスは、そのままレースに戻ることはできなかった。


ペースアップしたフェルフェッケンとウェレン(ベルギー)に
モウレイとシャイネル(フランス)が食らいつく。


フェルフェッケンはフィニッシュに向け、一気に加速。
モウレイとウェレンが後を追う


フェルフェッケンは、勝利を確信した。
そのまま単独でフィニッシュ。

そして、スプリントに競り勝ったウェレンが銀メダルに輝いた。


7年ぶりに世界を試した小坂正則

小坂正則は、すっきりとした顔をしていた。
7年ぶりの世界選手権、46位完走。
近年、エリートの完走がなかったことを思えば、
誰も予想をしていなかったほどの快挙である。

最終周回、ダンシングをしながらゴールを目指す小坂の表情には
挑戦的な気迫がみなぎっていた。

「どの試走よりも、今日が良かった」
きっちりピークを合わせて来るあたりは、さすがベテランである。
「あとは、若い選手に...」
すべてを出し切ったのか、さっぱりとした顔で語る。

「それでも、もう少し上を狙いたかったかな」
少し、悔しい目をした。
やはり、悔しさは残るようだ。

「挑戦」途中の辻浦圭一

第2周回、辻浦は急激にペースダウンした。
「このままでは、60分持たないかもしれない...」
厳しい選択だった。

1月中旬から、疲れが取れにくくなっていたという。
MTBでも世界を転戦し、そのままクロスのシーズンイン、

ピットに入り、バイクの管理をしてくれるスタッフなしには、
シクロクロスのレースへ参戦するのは難しい。
オランダでは、ステイ先のヒューブ氏が体調を壊し、
転戦にも負担がかかっていたことだろう。

完走という「結果」は出した。

レース後、落ちついた表情でスタッフに接してはいたが、
表情は、どことなく複雑で、曇っており、
この結果を「結果」として飲み込むことに苦労しているように見えた。

「エリート初の完走」という「結果」も、「44位」という順位も
欧州での5シーズン目を終えた彼が、自分を満足させるには、
あまりにも希薄なものであったに違いない。

「いつもできていることが、できなかった」
何よりも、彼が感じた自分自身のこの感覚が、
彼を落胆させていたのだろう。

ただひとつ、確かなこと。
彼は、確実に「世界」に近づいている。

うずまく悔しさを飲み込んで、彼はステイ先に帰って行った。

来年、クロス王国ベルギーで開催される世界選手権では
満足した微笑みを見せてほしい





スタッフはレースの準備をする
出走前の辻浦
出走サイン
優勝候補のネイス。
好調のウェレン
フランゾーイ
会場を埋めた大観衆
ウェレンが転がり落ちるように
先頭を切って下りて来た。
大階段。観衆が沸く。
辻浦と小坂。
前を追う辻浦
ネイスとフェルフェッケン
次第に殺気立って来る
小坂が伸びて来た
弾丸のようにゴールに向かう
フェルフェッケン
追う2人
ゴールまでもうすぐ
渾身の力でゴールを目指す
ピットでは、トラブルへの対応や
バイクの洗浄をする。
後輩もヘルプに入った。
ねぎらいの握手。